映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』-ALSの夫と旅を続けるミシェル・ヴァリスコさんインタビュー

アメリカンフットボールのスター選手として活躍したスティーブ・グリーソンと、旅と自由を愛したミシェル・ヴァリスコ。ふたりが結婚し、自由を満喫していたそのとき、スティーブは ALS(※筋萎縮性側索硬化症)と診断された。それと同時に新たな命を授かったふたり。スティーブは息子への贈り物としてビデオレターを撮りはじめ、ほとんど体が動かなくなった今も家族と旅をすることを楽しんでいる。
夫・スティーブさんとともに旅を続ける妻・ミシェルさんに、おふたりの旅についてお聞きしました。
※ALS(筋萎縮性側索硬化症):五感は残りつつも、運動神経細胞の突然変異によって体中の筋力が急速に衰えていく原因不明の難病。進行すると歩行、会話、自力呼吸もできなくなる。

© 2016 Dear Rivers, LLC

-ALSになる前から旅にはよく行っていましたか?
私もスティーヴも旅行が大好き。お互いに旅が好きというのもあって恋に落ちたのよ。
結婚する前にも南米へ数ヶ月間の旅をしたし、結婚してからも半年かけて世界をいっしょに回った。私たちは新しい文化を知ることにとても興味があるの。旅はいつも新しい発見を与えてくれる。インドネシアでは現地の人の家に泊まったり、オーストラリアやニュージーランドでは車内や野外でキャンプをしたりしながらローカルを感じる旅をしたわ。

-ALS診断後にも旅に行かれていますが、どのような気持ちで旅に出たのでしょうか?
私たちは診断を受けてから、さまざまな代替治療にチャレンジして新しい可能性を探ったけど、期待していたような効果は出なかった。ALSという現実を見たくないという、現実逃避の気持ちもあった。
スティーブの病気は日に日に進行し、半年後には子どもが生まれる。もう今までのようには旅はできなくなると思った。その前に自分たちでできる大きな旅行をしておこうと、ニューオリンズからアラスカのデナリまでキャンピングカーで旅をしたの。私は妊娠6ヶ月、スティーヴは杖をつきながら、ふたりでよたよたと車から出てくる姿は思い出しても笑えるわ。

Photo:Eika Akasaki

-実際に行ってみてどうでしたか?
周りに誰も知っている人がいなかったし、カナダやアラスカの自然があまりにも広大すぎて、逆に自分たちの恐怖や孤独が突きつけられるつらい夜もあった。その分、ふたりだけでいろんなことを時間をかけて話すことができた。

-スティーヴがALSと診断されてからどこへ旅されましたか?
国外だと、カナダ、アラスカ、ペルー。アメリカ国内であれば、車を使ってたくさんの場所へ行っている。スティーヴはどこへでも行きたがるのよ。だから、私は彼によく「あなたはALSなのよ!それを忘れているんじゃないの!?」って言わないといけない。(笑)今回だって、日本に行きたがっていたのよ。

-旅をサポートするにあたって特に大変なことは?
全てがとても困難よ。いまあなたが想像しているよりはるかに多くの物を持っていく必要があるの。200キロ近くの重さがある電動車椅子もそうだし、機材だけでなく、いくつもの枕や、シャワーチェア、なにもかも持って行くの。
そして、常に荷物以上に大きな恐怖がある。旅先でスティーヴの人工呼吸器が壊れたら、彼は呼吸ができなってしまう。だから、替えの人工呼吸器も持っていく……。そうやって荷物が増えていくのよ。
国によっては、レストランやホテルに身障者用のスロープが付いていない。マチュピチュではホテルの部屋がエレベーターのない階になってしまい、車椅子や荷物、そしてスティーヴをみんなで担いで部屋に行く必要があった。多くの場所で身障者でも入れるような設備を付けてほしいわね。

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-毎日の生活の中で、どこからチカラを得ていますか?
スティーブがALSだと忘れてしまうぐらい調子がいいときもあれば、現実を容赦なく突きつけられる日もある。機械がうまく動かなくて会話ができないときや、彼は蚊に刺されても自分で追い払うことも掻くこともできない、息子を抱きしめることもできない。そんなときは私も無力感に押しつぶされそうになるわ。
でも、それが過ぎ行く感情でもあることも知っているの。2、3時間じっと耐えればよくなる。
自分が感じていること、その感情を否定せず、受け入れるの。そう感じるのは間違いじゃない。つらい感情も受け入れて、次の楽しみまで待つようにしているわ。
次の楽しみは、毎年夏に1ヶ月ぐらい行くスティーブの故郷のワシントン州よ。涼しい湖があって、毎朝、息子とふたりで釣りに行くの。

-ミシェルさんにとって、旅はなにを与えてくれるものですか?
旅は私に自由の感覚を与えてくれるの。今まで知らなかった、新しい視点や、文化、習慣、そして物語を知ることができる。そこから、自分だけの新しい物語が生まれてくるのよ。

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-ミシェルさんはいま自分らしく自由でいますか?
以前は「自分らしく」いることができなかったけど、いまは違う。自分らしくいることができる生活に作り変えたの。自分1人の時間を作って、絵を描いたりしてるわ。
最初は病院で待つあいだの時間つぶしに絵を描き始めたのだけど、言葉では表現できなかった自分の気持ちが表現できることがわかった。誰でも自分だけの時間が必要だと思う。

-スティーヴが「体が動かなくても冒険してほしい」と映画のなかで言ってるのは、どのような想いからだと思いますか?
「旅に行きたい気持ちと、周りからのサポートがあれば難病でも旅をすることはできる」と、多くの人に示したいんだと思う。それは簡単なことではないけれど、彼にはラッキーなことに、サポートがたくさんある。それがチーム・グリーソン(※)の活動のひとつでもあるの。
今度、商業飛行機に乗って旅する予定なの。これからも家族で旅を続けるわ。

※チーム・グリーソン:スティーヴとミシェルの設立した非営利法人。ALSの患者を最新技術や設備・サービスを通して手助けする。「スティーヴ・グリーソン法」成立にも大きな働きかけをした。

映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』(公式サイト
8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷他にて全国順次ロードショー中

インタビュー・写真:赤崎えいか



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