旅で見つけたCODAのアイデンティティー。ろう者の両親を撮影した映画『きらめく拍手の音』イギル・ボラ監督インタビュー

耳の聞こえない両親のもとに生まれた、イギル・ボラ監督。今回は、18歳で高校を中退してアジアの旅へ向かい、見つけたアイデンティティー、また映画『きらめく拍手の音』についてお話を伺いました。

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こんにちは。Compathy Magazineライターの赤崎えいかです。

耳の聞こえない両親の元に生まれたイギル・ボラ監督。幼い頃から、両親と健聴者との通訳や説明をしてきました。
今回は、両親の日常を映しとったドキュメンタリー映画『きらめく拍手の音』について、また18歳で高校を退学し、東南アジアを旅を通して見つけた自分自身のアイデンティティーについてインタビューいたしました。

「18歳の今しか学ぶことができない旅がある。」

18歳のわたしは、NGOや、ドキュメンタリー制作のプロデューサーになりたいと思っていました。学校の先生に相談すると「それならば、一生懸命勉強をして、まずは入試に合格する必要がある」という返答。
良い成績をとってよい学校に合格することが、いま自分が学ばないといけないことなのだろうか?と疑問を持ちました。
なぜなら、良いドキュメンタリーを作るには、今すぐに現場へ行き、どんな人が、どんな生き方をし、なにが起きているのかを自分の目で見る必要があると考えていたからです。

多くの人たちは「それは大学へ行ったらいくらでもできる」と反対しました。
しかし、当時の私は、18歳の「いま」学べることと、大学生になってから学べることは違うと強く思っていました。
いましかない、いま学びたいと思っていることを学んだ方が、自分にとって大きな学びになると確信していました。

その後、アジアへ8ヶ月間行き、18歳の自分がそのまま学校にいたら会えなかった人たちに、たくさん話を聞くことができました。
出会ったすべての人がわたしの先生になってくれたのです。

それがわたしのアイデンティティー

映画『きらめく拍手の音』イギル・ボラ監督提供

わたしは幼いころから、誰と会っても最初に「わたしの両親はろう者(耳が聞こえない人)です。必要があればわたしが通訳します」と自分から説明していました。
多くの人は戸惑った表情やあわれんだ表情をし、なかには、おこずかいをくれる人もいました。
その度に、「どうしてわたしのことも、両親のことも知らないのにあんな目で見るのだろう?」と戸惑いました。わたしにとっての普通の基準は両親だったので、親がかわいそうだなんて思ってもいなかったのです。

18歳のときの旅先、インドのカルカッタで、たまたま現地の聴覚障害者に出逢い、その人はインド手話、わたしは韓国手話で話をしたんです。同じ手話でも言語が違うので、すべては通じないのですが、とてもその“会話”が楽しかった。
その会話を楽しんでいる自分に気付き「自分はろう者の両親から生まれ、手話と音声言語の両方を使っている、それがわたしのアイデンティティーなんだ」と再発見することになりました。

自分はCODAだから、こういった気持ちになり、こういった経験をしたんだ

映画『きらめく拍手の音』より

旅によって自分のアイデンティティーを見つけ、ろう者である両親の撮影をし始めたとき「あなたのような人をCODA(コーダ:Children of Deaf Adults)というんだよ」と教えてもらいました。
CODAとは、ろう者の親を持つ聴者のことです。そこで初めて自分はCODAだから、こういった気持ちになり、こういった経験をしたんだと理解できた。自分や両親がなにか誤ったことや、悪いことをしたからではないと分かったんです。
自分と同じような人たちが世界には大勢いるということを知って、自分の目の前の扉がひとつ開くのを感じました。

CODAは子供の頃から親の通訳をして育ち、自分のアイデンティティーをめぐり葛藤を持ち、悩む。ろう者でもあり、聴者でもある。身体的には聴者ですが、聴者とろう者の文化を持っています。
CODAは、とてもストレートに話します。手話がストレートな言語だからです。手話は手だけではなく、相手の目をしっかりと見て、表情でも会話をします。
「好き」「嫌い」をはっきりと表現するので、CODAとして音声言語を使ってしまうと、聴者の人たちには表現が強すぎて、礼儀がない人と見られてしまったり、誤解もよくされてしまいます。

映画『きらめく拍手の音』

映画『きらめく拍手の音』より

ろう者の世界というのはほとんどの人のとっては身近ではありませんが、皆さんが思うような静かな生活ではありません。少なくともわたしの両親はとてもにぎやかです。
映画のなかでもあるように、カラオケにもよく行き一緒に歌います。この映画を通じて、ろう者、そしてCODAの世界を少しでも知っていただければと思います。

インタビュー・構成:赤崎えいか

映画『きらめく拍手の音』
イギルボラ監督
6/10(土)より東京・ポレポレ東中野
ほか全国順次ロードショー
Eika Akasaki

Eika Akasaki

トラベルフォトライター。 世界中をカメラとMacを持って飛び回る。 宗教や文化、各国の女性やファッションに興味をもち追い続けており、著名人へのインタビュー記事も多く扱う。ウエブサイト:Eika Akasaki Photographer



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