フィリピン最大のインディーズ映画祭「シネマラヤ」とは?

フィリピン映画インディーズ界は2000年大半ばより第三の黄金期を迎えていると言われています。私がフィリピンに行った2014年は、10周年ということもあって、フィリピン国内でも大きな盛り上がりを見せていました。

2014年の8月、私は12年ぶりにフィリピンのニノイ・アキノ空港に降り立ちました。目的はフィリピン最大のインディーズ映画祭、シネマラヤ。フィリピン映画を視察する妹に同行する旅でした。フィリピンはもともと映画大国であり、戦前からアメリカ文化の流入で映画が栄え、70年代にはマルコス政権の庇護のもと、リノ・ブロッカなど、世界的に有名な監督により、たくさんの秀作が生まれました。

フィリピン映画インディーズ界は2000年大半ばより第三の黄金期を迎えていると言われています。私がフィリピンに行った2014年は、10周年ということもあって、フィリピン国内でも大きな盛り上がりを見せていました。

Photo credit: Shino Ichimiya「じんわりあたたかなケソンでの3ヶ月」

Photo credit: Shino Ichimiya「じんわりあたたかなケソンでの3ヶ月

シネマラヤ出身の映画監督として有名なのは、2014年秋の東京国際映画祭で上映された『above the clouds』 のペペ・ジョグノ監督、先日惜しくも急逝した、2014年のフィルメックスのコンペティション部門で最優秀賞に輝いた『クロコダイル』のグザビエ・パション監督などが挙げられます。

2014年のシネマラヤは8月1日から10日までの日程で開催され、熟練監督によるディレクターズショーケース、新進気鋭の監督たちによる長編作品であるニューブリード、短い中にもきらめきを見せる短編作品で構成されていました。

筆者撮影

筆者撮影

2014年のシネマラヤは、マニラベイ近くのパサイ市にあるCCPをメイン会場に、マカティ市のグリーンベルト、アラバンタウンセンター、トリノマ、フェアビューテラスなどをサテライト会場に行われました。

CCPは1969年、マルコス独裁政権華やかりし頃、イメルダ夫人の提唱によって作られた「カルチャー センター オブ ジ フィリピン」(=Cultural Center of the Philippines)で、通称CCPと呼ばれています。ここは開場して45年近くにもなり、老朽化がかなり進んでいますが、フィリピンの文化の中心として人々に強く愛されている劇場です。

チケットを買うために並ぶと、マニラの大学に通う多くの学生の姿を目にしました。知り合いのフィリピン人映画監督によると、フィリピンでは大学が芸術鑑賞を奨励しており、シネマラヤなどの各映画祭に参加することや、演劇を鑑賞することで、単位取得が可能だということ。自己表現や芸術を何より大切にするフィリピンの文化を垣間みた気がしました。

それでは、今回観た作品について紹介します。

『Eye ball』

これはフィリピンでは利用していない者は一人もいないと言われているFacebookで、浮気相手を探すプレイボーイがある男と出会うことで思いもよらない事件に巻き込まれるお話。次々と繰り出される早口のタガログ語が小気味いい作品でした。

『Nakabibinging Kadiliman(話せない者、見えない者)』

耳の聞こえない妹と、目の見えない姉が支えながら静かに暮らしていたのですが、ある青年との出会いによって静かな生活は一変してしまう物語。静かな中にも情熱を秘めた秀作です。

『Lola(老女)』

ある静かな昼下がり。老女が庭で洗濯物を干していると、一人の娘が逃げ込んできます。ゾンビに追われているようです。老女はためらうことなくゾンビを撃ち殺しました。娘が感謝の言葉を述べながら近寄ると、その娘も老女によって撃ち殺されてしまいます。

フィリピン人はゾンビ映画が大好きです。北の都であるバギオではゾンビウォークなるイベントが開催され、多数の人が参加しました。そのことからも、どれくらいゾンビが好きであるのかがわかります。

これはフィリピンがゾンビ大国であるアメリカの影響を多大に受けたことによるのか、それとも長い年月にわたってたくさんの国々によって統治され、虐げられてきた自国の国民を揶揄しているのか…。

そのことを考えると、とても興味深い作品です。ゾンビになってしまった家族と、その家族のために生きた人間をハントする、ロラ(老女)。家族を何よりも大切にするフィリピン人。愛する家族がゾンビになってもなお愛し続けることができるのか。ゾンビになっても愛は残っているのか。ゾンビ映画なのですが、フィリピンの普遍的な家族愛について描いている映画になっています。

この作品は終了後、観客から自然と拍手が起こり、隣に座っていた妹と目を見合わせた覚えがあります。これまでフィリピンの映画館では、エンドロールまで見終わるフィリピン人をほとんどみたことがなかったからです。

筆者撮影

筆者撮影

『Ina-Tay(Mother-Father)』

今回、特に印象に残ったのは『Ina-Tay(Mother-Father)』。フィリピンではLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア)についての理解は日本より進んでおり、この映画はそれをテーマにした作品です。

トランスジェンダーである美容師が、ある日、自分の息子だという赤ん坊を渡され、悩み葛藤しながらも慈しみ育てていく話。この作品はフィリピンの公用語であるフィリピノ語(タガログ語)ではなく、南部の言葉であるビサヤ語を全編にわたって使用しています。

ビサヤ語を使う人口は、実はタガログ語人口よりも多いと言われており、ビサヤの人々の心に宿るプライドを強く感じました。上映終了後には幸運にも主人公の一人であるトランスジェンダーの彼女(彼?)に遭遇しました。思わず声をかけると記念写真にも快く応じてくれ、その後、彼女を通じて知り合った、この作品のクロエ・ベローソ監督とも現在まで交流が続いています。

映画上映の前に、突然国歌が流れ、全員起立し胸にてを当てて国歌斉唱したのにも驚かされました。長い間他国に統治され、独立を勝ち取り、またマルコス政権による20年にも及ぶマーシャルロー(戒厳令)時代をエドサ革命(通称people power)によって打ち破ったことは彼らフィリピン人民衆の誇りとなっているのです。

Photo credit: Takanori Nakagome「マニラ 〜大都会でダンスとアート〜」

Photo credit: Takanori Nakagome「マニラ 〜大都会でダンスとアート〜

2016年度のシネマラヤは8月の頭に開催される予定です。去年はなかった長編作品のコンペティション部門の上映作品は昨年末に早くも発表されています。短編作品のエントリーはまだ始まったばかりです。興味のある人は、ぜひ訪れてみてください。

文・写真:永井愛子

Compathy Magazine編集部

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