
今の時代に編集長・内田洋介があえて紙媒体で『LOCKET』を創刊した理由

海外に行くとき、わたしたちは何かを期待して行きます。それは壮大な景色や、美味しい食べ物、出逢い、そして自分自身への「気付き」かもしれません。
価値観を旅する雑誌『LOCKET』を作った内田洋介さんに、前半のインタビューでは誌面で多くのページを割いているブータンという国について語って頂きましたが、後半では価値観に目を向けるようになった衝撃的なきっかけや今後について語って頂きました。
ーもともと価値観を意識して旅をされていたんでしょうか?
以前インドに行ったとき、インドに行けば「人生観が変わる」とか「THEバックパッカーになれる」と思っていました。しかし、バラナシでガンジス河に流れる遺体を見ても、何も感じなかったのです。かえってそのことが衝撃的でした。その理由を考えてみたら、自分はバックパッカーや自分探しというものに憧れていただけで、結局自分が見ていたのは「見せかけの自分」だったんですよね。そこから、自分の外にある文化や価値観というものに意識を向けるようになりましたね。
ー「価値観」というものは今の世の中で統一されていく傾向があると思うのですが、そこはどう感じていますか?
価値観が均質化されていくことに対して、いい印象は持っていません。ブータンを例にしてみると、15年前にインターネットとテレビが同時に解禁されました。首都ティンプーに住むような若者は、僕たち日本人以上にインターネットが身近な存在ですし、英語教育を受けているため西洋の影響を受けやすいといえます。このような西洋化や均質化が進むことがいいとは思えませんが、それを止めるというのも違うし、難しいでしょう。もし僕が古き良き昭和の暮らし、洗濯板を持って洗濯をしろって言われたら、当然嫌です。変化を止めるというよりは、その価値観がもし変化した場合に気付けるような存在でいたいです。

Photo credit: Yosuke UCHIDA「10DAYS IN BHUTAN!」
ーこれからも変化や、それぞれの価値観を伝えていくのでしょうか?
そうですね。僕はストックフォトから集めた写真がネット上で評価されたり、写真集が何十万部も売れたりすることに対して「行ったこともないような地域をおすすめするのはどうかな?」と思っています。売れる本を作るのがそれを作った人たちの仕事なのかもしれませんが、それにはあまり同意できないので、そのささやかな抵抗として『LOCKET』のような一見わかりにくい内容でも大切なモノを作っていきたいなと。
ー近頃は紙媒体が減り、ネットには情報が氾濫していますが、なぜ今の時代にあえて紙媒体を選んだのでしょうか?
Web媒体の普及が進んでいるのはもちろん知っています。しかし、Webというのは速報性や利便性、すなわち情報が追求されるものだと思います。今回僕は「価値観を伝えたい」「目には見えない物語を伝えたい」と考えていたので、手間をかけて雑誌にしたほうが、よりハッキリした形で残せるのではないかと。「お前が言いたかったことはこれほど言いたかったのか」「こんな世界の見方もあるのか」と、より深く伝わるんじゃないかと思って作りました。

Photo credit: Yosuke UCHIDA「10DAYS IN BHUTAN! 」
ー次回について、何か決まっていますか?
来春に次号を出すべく、資料をリサーチしている段階です。いずれにせよ、ひとつの視点で世界を串刺しに見つめるような雑誌を作っていきたいと思っています。創刊号にプレミアがつくまで継続しますので、これを読んだ方にはぜひ手に取っていただけるとうれしいですね (笑)。
■ブータンは本当に幸福な国なのか?旅する雑誌『LOCKET』が紐解く
(ライター:赤崎えいか)
Photo by: Yosuke Uchida「10DAYS IN BHUTAN!」
ブータンの旅行記はこちら
*内田洋介「10DAYS IN BHUTAN!」