漫画を通して国境を超える翻訳家、スタンザーニ詩文奈(シモーナ)さん

今ならおトクなキャンペーン実施中!
\ CompathyGOバーチャル旅行、はじまりました! /


旅を通して新しい港を探す、Compathy Magazineライターのレティです。

「なぜ日本語を勉強しようと思いましたか?」

これは、日本語が話せる外国人なら常に聞かれる質問です。その答えは多様多数でしょう。歴史、ファッション、文学などそれぞれの興味に惹かれて日本語と日本文化を学び始めたわけです。不思議なことに、そのなかでしばしば耳にする答えがあります。それは「マンガとアニメ」。

「三島由紀夫」だとピンとこないかもしれませんが、「ドラゴンボール」なら欧米からアジアにかけて誰でも知っています。それくらい日本のサブカルチャーの力は強いです。もはや日本のものだけではなく、国境を越えた漫画は世界の国々では日常生活の一部となっています。

今日は22年前からずっと、漫画を通して日本文化を世界中に広めている翻訳家、スタンザーニ詩文奈(シモーナ)さんにお話を伺いました。

simonastanzani01

夢から夢へと──翻訳家活躍の始まり

— 詩文奈さんと漫画との関係はどうように始まりましたか?

実は子どもの時、漫画家になりたかったのです。14歳の時から好きな漫画の登場人物を使って新しいストーリーを作ったりして、漫画を描くことに夢中になって、自分のオリジナルキャラやストーリーを作り始めて漫画家になる夢を抱くことになった。
しかし、当時はイタリアで漫画の市場が小さ過ぎて、プロとして生活できるような環境ではなかった(今も難しいですが)。なので、自分の夢を叶えるために日本語を習って日本に行くしかないと思いつきました。ですから、漫画を使いながら日本語を勉強しはじめましたが、同時に働き始めて、描く時間がだんだんなくなってしまいました。

一方、日本語で読むことのほうが楽しくなってきたのです。イタリアで出版される前に好きな漫画を読めるなんて、すごく興奮していました。そもそもイタリア語で書くことが好きだったし、外国語にも熱心になってきて、自分の夢が漫画家から漫画の翻訳家になることへとても自然にシフトできたのです。

― 翻訳家としての活躍はどのように始まりましたか?

80年代後半からカッパボイズという4人集団が、様々な出版社と協力しながらイタリア市場に漫画を紹介しはじめました。そして90年代に自分の出版社まで作って、どんどん漫画を翻訳し、彼らがまさにイタリアの漫画市場を作ったのだと思います。

ちょうどそのときにカッパボイズから漫画の翻訳してみないと声をかけられて、私の翻訳活動が始まったのです。ですから、1992年から今日までずっと漫画の翻訳をし続けたわけです。おそらく漫画翻訳を本業にしている現役の人の中で私が一番長いキャリアを持っているのではないかと思います。

office2014-2
詩文奈さんのオフィス

— 1992年から今日まで翻訳した漫画の数は?

数えきれないですね(笑)『ジョジョの奇妙な冒険』Part.7前半まで翻訳しましたが、それだけでも100巻を超えています。現在『BLEACH』を翻訳していますが、既に第63巻までですね。
他には『きまぐれオレンジ☆ロード』、『エア・ギア』、『電影少女』……キリがないですね(笑)
最近は『黒執事』、『惡の華』、『夏目友人帳』、『タイガー&バニー』、『ブトゥーム!』などを翻訳しています。

― 初めて翻訳した漫画は何ですか?

『攻殻機動隊』でした。たぶん翻訳したものの中で一番難しかったと思います。未来技術やサイバーカルチャーに関する語彙が多くて、いちいち調べるのが大変でした。当時インターネットはまだ存在していなかったし(笑) ものすごく苦労しましたが、もう一度訳してもいいぐらい素敵な作品です。
あ、実際、映画のDVDのイタリア語字幕の翻訳もしましたのでもう叶えたか(笑)

simonastanzani03

言葉だけでなく、文化を翻訳する仕事

— 翻訳家、特に漫画の翻訳家仕事の一番難しいことはなんですか?

まず翻訳するというのは、単純に言葉を翻訳するだけではなく、文化を翻訳するということです。

たとえば、日本語では「ただいま」のような表現がありますが、その言葉はまさに「家に帰った」というあたたかい気持ちを表します。ひとつの言葉を使うだけで、複数の感情が表されて、同じ気持ちを他の言語に翻訳するのはなかなか難しいです。

― 翻訳の困難といえば、ユーモアはどうですか? 文化によってユーモアのツボが違って、翻訳するのが難しいのではないかと思いますが。

実は日本漫画やアニメ文化は昔からイタリアに伝わってきて、既にイタリア文化の一部となっている気がします。ですから日本漫画とアニメはウイルスのようにイタリア文化に伝染したおかげで、日本のユーモアも理解されるようになったと思います(笑)

もちろん、漫画だけではなくて、映画などもそうです。去年(2013年)はヴェネツィア国際映画祭とローマ国際映画際に公式上映された『地獄でなぜ悪い』と『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』のイタリア語字幕を翻訳しました。そのときもイタリア人観客の反応はどうかなと心配していましたが、ギャグも通じたみたいで、観客が笑ったり拍手したりしてよかったです。

100_5734
「Collisioni文学音楽際2010年」にて漫画家の池田理代子さんと一緒に。詩文奈さんは左から2人目。

― 擬音語や擬態語を翻訳するのは難しいでしょうか?

それはそうでもないかも。なぜかというと、イタリアではアメリカのコミックのオノマトペに慣れているからですね。一般的に英語のオノマトペを使って擬音語や擬態語を翻訳することが多いです。

しかし場合によって新しい工夫も必要ですね。例えば静寂を表す擬態語の「し~ん」をイタリア語の「沈黙」(「silenzio」)という言葉で翻訳してみたりしましたが、最初はすごく違和感がありました。読者に通じるかなと、心配していましたね。しかし、漫画を右から左に読むことに慣れたのと同じように、最初戸惑った読者も慣れてきて、今では普通に使っていますね。

— やっぱり最初はいわゆる「逆さ読み」に抵抗がありましたか?

そうですね、最初出版された漫画は全部左から右に読んでいました。
しかし、『ドラゴンボール』がイタリア語に翻訳される際に鳥山明先生が右から左に読むのを譲らなかったんです。出版するならオリジナルのまま、右から左にしてって。出版担当のカッパボイズが読者の反応について心配していて、本当に困っていましたね(笑) しかし「逆さ読みって格好いいよ」というメッセージが伝わったおかげで、読者も慣れてきて、もはや左から右に読む日本漫画はゼロに近いほど数少なくなっています。

反感、共感、感動──漫画の力とは

— 詩文奈さんを一番感動させた漫画は何ですか?

間違いなく『電影少女』です。漢字を読めなくなるほど泣いてたことを今でもよく覚えています。まあ実は翻訳しながら泣くということは常のことですね(笑)けど、『電影少女』は翻訳の仕事を始めたばかりの時翻訳したこともあって、特に印象に残っています。

あと、最近翻訳してすごく泣いたのは浅田弘幸の『テガミバチ』という漫画もあります。絵もすごくきれいですし、話もとても感動的です。残念ながら日本と比べると、欧米ではあまり脚光を浴びていないですけどね。たぶん、日本と欧米の感受性が違うからでしょうか。

CM09riza-2

─ 漫画を翻訳する時に登場人物が嫌いになることがありますか?

たまに死んでほしいと思うぐらい大嫌いな人物がいます(笑) 特に少女漫画を翻訳するときはイライラさせられる人物が多いです「あ、どうしよう?」「あたし、何をすればいいかな?」とグズグズしている人物とか(笑)

どちらかというと、私はアクションのほうが好きで、読んでいて楽しいですし、夢中になります。でも、漫画ってページをめくればめくるほど話がどんどん転換して、人物の成長を見ながら自分の過去と向き合うこともできます。漫画ってそういう力も持っていますね。

― 漫画のおかげで日本文化が世界の国々で広まってきましたが、なぜだと思いますか?

漫画は音楽のようなものかと思います。つまり文化の違いと関係なく、人間ならば誰でも持っている心の琴線に触れる力があると思います。そして、絵から成っているので、小説よりも目に入りやすいメデイアだと思います。

— まさに国境を超える共通言語ですね。そういえば、詩文奈さんは「サイレントマンガオーディション」というプロジェクトにも加わっていますね。どんなプロジェクトですか?

セリフなしの短編という形式で世界に向けて作品を募るプロジェクトです。2013年は「ラブレター」、2014年は「最高級のスマイル」をテーマに開催され、65の国と地域から応募作品が寄せられました。残念ながらイタリアからの応募作品は少ないですが、コロンビアとかジンバブエとか、想像もつかない国から応募作品を見るチャンスを与えてくれる魅力的なプロジェクトです。

「サイレントマンガオーディション」のおかげで、言葉がなくても心で通じ合えるという、漫画の力を改めて実感できました。

― 今度ぜひイタリアで紹介したい漫画はありますか?

『死役所』です。まるで役所みたいなところで、人間が死んだ後で訪れて、自殺課、他殺課、病死課、事故死課などに分けて手続きしながら自分の人生と死を振り返す。
結構グロテスクですが、人物の物語を通して同時に「死」と「生」を語る、とても感動する漫画です。
そしてイタリア人が大好きなブラックユーモアもあふれているので、ぜひイタリア語で翻訳したいです。

ユーモアであり感受性であり、今後も漫画を翻訳することで、いろいろなアプローチをしてイタリアと日本をつなげていけたらいいなと思います。

スクリーンショット 2014-10-08 18.26.07
Photo Credit: Silent Manga Audition

[スタンザーニ詩文奈(シモーナ):イタリア北部のボローニャ生まれ。ボローニャで日本語を勉強し、1992年から漫画、映画、アニメ等をイタリア語と英語に翻訳している。翻訳の傍ら、東京の日本映像翻訳アカデミーで漫画翻訳を教えながら、幅広く日本サブカルチャーを中心に活躍している。]

*Takahumi Taneichi「芸術の街イタリア~2014.02 ローマ・フィレンツェ
*Guarini Letizia「甘い生活のローマでThe Great Beautyを探す
*Vincenza Vicky Maione (美貴)「Le stazioni dell’arte di Napoli・ナポリ市の「美術の駅」

今ならおトクなキャンペーン実施中!
\ CompathyGOバーチャル旅行、はじまりました! /


Leti

Leti

南イタリアのバシリカータ州で育ち、7年間ナポリに滞在。22歳の時に来日し、現在日本文学とジェンダーを研究しながら旅ライターをしています。「私たちの頭は丸い。だから思考はいつでもその方向を変える事が出来る」は人生のモットーです。



関連する旅行カテゴリ

# 日本の言語・会話 # インタビュー # 言語・会話 # 日本

関連する旅行記事