Traveler’s Express「江藤誠晃さん – 己の弱さを認め、世界と対峙するゴールのない旅 – 」

Compathy Magazine編集部が送る
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以前、Compathy Magazineでもご紹介した、旅PAPAこと江藤さん。長い旅の経歴をお持ちだからこそ知りうる、旅と旅人のスタイルの変遷。その中で見えた、江藤さんの旅の定義とは? そしてかつての旅人と、現代の旅人の違いとは?

今回は、思わずハッとする、旅の原点に立ち返るお話を伺うことができました。

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写真:【イベントレポート】旅PAPA・江藤さんと「世界イケメンハンター」窪咲子さんのトークライブへ行ってきた(江藤さんは左の男性)

写真1枚と短い言葉で切り取る、旅先での一瞬

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写真:女神の微笑/カンボジア

―江藤さんのブログ「世界見聞log」ではアジアの記事が特に多いように見受けられます。

去年50歳になって、自分の人生を整理したいなって思ったとき、旅で撮りためた何万枚もある写真を、もう一度自分の言葉でまとめるために「世界見聞log」を始めました。それが去年の8月くらいで、単に写真整理でなく、自分の遺書として、写真と文章をネットで残していこうと思って。続けていたら、それをビジネスにしないかっていう話を頂いて「世界見聞log」ブランドの旅行商品が生まれたり、仕事になっていった。それがたまたま、好きで何度も旅へ行っていた東南アジアだったっていう。

―今はもう東南アジアのプロフェッショナルですね。

90年代は南の島ばかり行っていたんだよね。元々東南アジアに興味はあったけど、いつから行き始めたかは覚えてないなあ。旅そのものも、一番最初に行ったのは大学のゼミ旅行で香港に行ったんだけど、当時は1ドル250円くらいの時代。そんな時代で、日本のビザで行ける国って本当に限られているし、東南アジアだって紛争地帯だったと思う。

―海外へ行くのも、今よりずっと敷居が高かったでしょうね。

今の2.5倍くらいの値段で商品を買ってたわけだし、アルバイトだって時給400円の時代だからね。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアに行くっていうのは一大イベントだった。でも、僕自身は、まさか自分が海外を転々として仕事をするようになるとは思っていなかった。

―どこかへふらっと遠出する、ということはなかったんですか?

大学時代はスキー部だったんだけど、夏はバイクに乗ってずっと放浪してたんだよね。生まれも神戸だから、港町でなんとなく異文化が混じりあった雰囲気の中で育った。常に小学校が高台にあってさ、校庭のフェンスにへばりついて、瀬戸内海を眺めてた。特に綺麗な海でもないし、それこそ公害の時代だったけど、身近に海があったから、大海原の先の世界を思い描いていたのかも。

銀幕から広がる海外へのあこがれ

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写真:旅人の数だけ物語がある

そういえば、思い出した。そもそも色んな所へ旅するきっかけになったのは、中学1年からだよ。映画少年だったんだよね。お小遣いの500円玉をにぎりしめて、一日中映画館で映画を観ていた。昔は、朝入れば何本も続けて観ることができたんだよね。友達と遊ぶことよりも楽しくて、銀幕の世界で見た海外が、そもそもの旅への原点だと思う。言葉も意味もわからないけれど、中学1年生でフランス映画や恋愛映画や、ハリウッド映画を観まくっていろんなことを想像していた。

―海外への憧れから、旅につながっていったんですね。

そう。自分の中の世界を作って、バーチャルの中で物語が展開していく。それが今になって海外に行くっていうことと繋がっているのかも。リアルに旅ができるようになって、実際に世界を見ていくことは、ネットっていう意味のバーチャルではなくて、映画や小説のフィクションの世界に夢中になって自分でコンテンツにはまっていったのが旅の原点かもしれないね。

―そう思ったきっかけがあったんですか?

この間、もし僕が世界一周をするなら何を目的にしようかと思ったとき、映画のシーンに入り込むっていうことが浮かんだ。単に映画の撮影に使われた舞台を旅するんじゃなくてね。例えば映画『カサブランカ』で、最後飛行機を見送るシーンとか、自分が映画で見た「かっこいい男の生き様」を自分が憑依したような形で行って、当時の戦争とか歴史を踏まえて世界を見て回りたいなって思った。

―映画のロケ地や、舞台を回るのももちろんいいなって思うんでしょうけどね。

そうだね。例えば『星の王子様』を書いたサン=テグジュペリは、パイロットで消息不明になっちゃったわけだけど、一体出発して死ぬ直前に彼は何を考えていたんだろうって考えるとゾクゾクするよね。極限まで孤独な生き方をして後世に残る作品を遺した、その生き様みたいなものを一部分でもいいから、自分も体験して知りたい。

映画も旅も一期一会

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写真:ホーおじさんの肖像/ベトナム

―バーチャルの世界と現実世界を同化させるわけではなく、でも重ねて見る視点は、旅の最中で異国を見た時に生まれるものに近い気がします。

中学1年生には、フランス映画だの恋愛映画だのって、一回観ても意味分かんないですよ。休憩10分の間にトイレに行って考えて、パンフレットを買って見ると「あ、そういうことだったんだ」って思ってもう一回見る。2回目で「なるほど」と思って、3回目。1日に同じ映画を3回見てやっと「そうか!」って思える。何度見ても必ず新しい発見があるんだよね。そしてそれって実は旅も一緒。ハワイに関しては好きすぎて20回以上行っているけど、行くたびに発見がある。同じ所に行っても、旅をしている自分は変わってるから、全く違う一期一会がある。今は、さすがに1日3回同じ映画を見る人はいないと思うけど。笑

―何かひとつのことにじっくり向き合うには、時間と心に余裕があればできるんですけれど。

やることがいっぱいありすぎるんだよ、今の人。最近「世界見聞log」を書いていて思うのは、行間を読ませたいということ。僕がひとつの景色と出会って写真1枚と短い言葉に思ったことを込めて書く。海外からの絵葉書みたいに、景色や場所を「ここはこういう場所でこういう歴史がありますよ」ってすべて説明せずに、自分の思いを押し付けるわけでもなく、淡々と遺書のように残していくのがいいなと思うし、それが意図せず誰かに響いたらいいなって思うとワクワクするよね。

世界の広さと深さ、自分の弱さを知り、それでもなお旅へ出る

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写真:旅人の数だけ物語がある

―江藤さんは、TABIPPOという団体主催のイベントで行われたコンテストの審査委員もされていますが、かつての旅人と、最近の若い旅人とで何か変化などを感じることはありますか?

旅人は時代が生み出すから、スタイルも発想も全然違う。一番分かりやすい例で言えば、インターネットが全然普及していないから、僕らが学生の頃は、海外に行ってしまえば生きて帰ってくるかどうかは神のみぞ知るっていう状態。海外からポストカードを、彼女や家族に送っても、カードが届くのと僕が帰国するのとどっちが早いかっていう。笑 だからこそ、海外へぽーんと出て行って、ひとりで知らない街に立つと怖かったし、不安だったし、誰とも繋がっていないけれど「生きてるな」っていう充実感があった。

―そうですね、今はすぐに簡単に連絡がとるから、旅に出ても放り出された感覚は無いです。

そういう意味では、放り出された感を求めているのかなって思う。きっと今の子達にとっては、すべてが想定範囲内なんだろうね。わくわくやどきどきも、何をしても誰かの真似になるというか、オリジナリティを打ち崩しちゃう。情報過多時代の不幸かもしれないね。

―NO.1よりオンリー1だってみんなが言うと、それがスタンダードになるって言う。

そうそう、そういう感じ。外から見た自分を知っていれば、誰かの真似ばかりになることはない。例えば今ブームの世界一周だとか、ウユニ塩湖だって最初に行った人はスゴいけど、みんなそれの後追いになってる。でも、そうじゃなくて、人生って一種の方程式でさ、年を重ねれば足し算や掛け算になるけど、時には引き算や割り算も必要なの。思い切って絞り込むと、それがオリジナリティになる。だけどその絞り方のノウハウって、経験を重ねないと出てこない。

―だから、若い人たちは焦って「自分探しの旅」に出たがるのでしょうか。

世界って、一言で言い尽くせないほど広くて深い。それを分かった上で飛び込んで、旅に出たいと思う自分と対峙するのが旅の意味で、偉大で最大な世界と対峙することが旅人としてのポジションだと思う。だから、自分を探すっていう行為自体、そんなに意味ないんだよね、だって生きていればいつだって自分を探してる。誰ひとり、確実に見つけて把握し続けている人はいないんじゃないかな。自分の無知や弱さ、はかなさをわかった上で、それでも行きたいって思えるのが旅の魅力で、ゴールのない旅こそ本質なんじゃないかと思う。僕だって、まだ探している最中、旅の途中だしね。

[江藤誠晃(Tomoaki Eto): 11月29日生まれ。トラベル・プロデューサー、旅行作家。ブログ「世界見聞log」を執筆する傍ら、政府観光局、H.I.S等旅行代理店との旅行商品を企画・提案するなど、国内外のプロジェクトに参画。]
Misaki Tachibana

Misaki Tachibana

富士山の麓で生まれ、今は日本文学を勉強中。好きな作家は川上未映子と堀田善衛。おばあちゃんになったら、国内外問わず、山の中で書道の先生をやるのが小さい頃からの夢です。



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